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アンサンブルカロス 教え子と約束した共演

7月1日
読了時間: 7分

更新日:8月31日

同じ楽譜を前にしても、奏者の歩んできた時間が違えば、音の立ち上がりも、息づかいも、音楽の見え方も変わります。アンサンブルカロスの魅力は、まさにそこにあります。


フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ピアノという5つの楽器が集まり、木管の柔らかな呼吸とピアノの立体的な響きが交わる編成。一般的な木管五重奏とは少し異なる顔ぶれだからこそ、音の輪郭に独自の奥行きが生まれます。


このアンサンブルをさらに特別なものにしているのが、メンバーそれぞれの世代や音楽観の違いです。経験を重ねた熟年奏者の音で語る説得力、若い世代のしなやかな感性、そして互いを尊重しながら音楽を組み立てていく姿勢。そのすべてが、アンサンブルカロスの音に息づいています。


ゲストにホルンを招いてのコンサート終了後
ゲストにホルンを招いてのコンサート終了後


5人の違いが音楽に奥行きを与えている


アンサンブルでは、すべての奏者が同じ方向を向くことが大切です。とはいえ、全員が同じ考え方で演奏する必要はありません。むしろ、違う視点が集まることで、音楽はより豊かになります。


アンサンブルカロスの5人は、楽器も、世代も、音楽の見つめ方も異なります。


フルートは空気の流れをそのまま音に変えるような楽器です。オーボエは、細く密度のある音で旋律に芯を与えます。クラリネットは、柔らかさと機動力を併せ持ち、音色の幅で全体をつなぎます。ファゴットは低音を支えるだけでなく、時にユーモアや深みを生みます。ピアノは和声、リズム、音楽全体の構造を支える、大ボス(?)的な存在です。


この編成では、誰かひとりが前に出続けるのではなく、主役が自然に移り変わることが重要になります。旋律を受け渡す瞬間、伴奏が表情を変える瞬間、低音が音楽の重心を動かす瞬間。そうした細部に、5人の対話が表れます。


世代の違いも、アンサンブルにとって大きな財産です。長く演奏を続けてきた奏者は、楽譜の奥にある様式感や間の取り方を熟知し、一方で、新しい感覚を持つ奏者は、音楽に今の空気を運び込みます。


意見が違う場面もそれはそれはたくさんあります。テンポの感じ方、フレーズの山、音色の濃さ、ピアノと木管のバランス。けれど、その違いを避けずに扱うからこそ、演奏は単なる「合わせ」ではなく、ひとつの音楽として立ち上がります。



元教え子と果たした約束


20年以上も前の写真
20年以上も前の写真

アンサンブルカロスを語るうえで欠かせないのが、ファゴット奏者の興津諒と私、磯田真弓の関係です。彼は長年、私の教室の教え子でした。音楽の道へ進むこととなり、卒業したらいつか一緒に演奏しようという約束を交わしていました。その約束が、アンサンブルカロスという場で形になったことは、このグループの物語に温かい芯を与えています。

そして、お互いの大切な友人・演奏仲間を引き合わせ、2024年某日、アンサンブルカロスが誕生いたしました。


音楽家同士の約束は、簡単なようでいて、実現までに時間がかかることがあります。活動の場、スケジュール、演奏したい作品、共演する仲間。いくつもの条件が重ならなければ、ひとつの舞台にはたどり着きません。


それでも約束が残り続けたのは、互いの音楽に対する信頼(だけではないですが)があったからでしょう。


彼は、演奏家としてだけでなく、作品を生み出す側の視点も持っています。音を鳴らすだけでなく、編成の可能性を考え、楽器同士の関係を見つめる姿勢がある。その存在は、アンサンブルカロスに「演奏するグループ」という枠を超えた広がりをもたらしています。


きっかけは、師弟間でかわされた小さな約束。その約束を大切に受け止めてくれるメンバーがいるからこそ、その約束から生まれたストーリーが、アンサンブル全体の魅力へと広がっていってるのだと思います。



立派な音楽家に成長した元教え子。とても頼もしい存在に。
立派な音楽家に成長した元教え子。とても頼もしい存在に。


ユリホールと厚木文化会館で叶えたコンサート


アンサンブルは、練習室だけで完成するものではありません。ホールで音を出し、客席に音が届き、聴き手の反応を受け取ることで、演奏は変わっていきます。


アンサンブルカロスは、これまでに二度 コンサートを行いました。

私にとって、母校であるユリホールと厚木文化会館。とりわけ厚木文化会館での演奏経験は大きな意味を持ちます。

この舞台には、これまでピアノ教室の発表会で、何度も何度も立ってきました。そんな思い出のある舞台に、元教え子と、今度は仲間として一緒にコンサートで立てることを、とても感慨深く感じました。

今後は小さなサロンなどでもコンサートを展開していけたら・・・と願っております。


また、アンサンブルカロスは、フルメンバーでの演奏に加え、トリオやデュオなど、様々な編成で音楽をお届けしています。曲目や会場、コンサートのテーマに合わせて、多彩なプログラムを展開しています。

この経験を重ねることで、アンサンブルカロスの音楽はより柔軟になっていくでしょう。




限られたレパートリーが生んだ編曲への挑戦


フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ピアノという編成には、大きな魅力があります。その一方で、最初からこの組み合わせのために書かれた作品は多くありません。


これは、アンサンブルカロスにとって避けて通れない課題です。演奏会を組み立てるには、既存の作品を探すだけでなく、編曲という作業が必要になります。


編曲は、単に音を割り振る作業ではありません。原曲の魅力を守りながら、5つの楽器が自然に響くように作り替える必要があります。


たとえば、弦楽器のために書かれた旋律を木管で演奏する場合、息継ぎの位置を考えなければなりません。ピアノ曲をアンサンブルに広げる場合は、和声をどの楽器に持たせるかが重要になります。オーケストラ作品を小編成にするなら、音の厚みをどう保つかが課題になります。

フルートの軽やかさ、オーボエの芯、クラリネットの柔軟さ、ファゴットの深み、ピアノの広がり。それぞれの持ち味が見えるように、楽譜を整える必要がありますね。


この作業は手間がかかります。けれど、その手間こそが、アンサンブルカロスの個性を形づくっています。既成のレパートリーをなぞるだけではなく、自分たちの編成に合う音楽を探し、時に作り、演奏の場で育てていく。その姿勢が、聴き手に新鮮な体験を届けます。



興津諒のオリジナル作品が示した新しい可能性


そして、そのアレンジを一手に引き受けてくれているのが、先述の元教え子、興津諒です。

限られたレパートリーという課題に対して、ひとつの大きな答えとなったのが、彼によるオリジナル作品『唱歌パラフレーズ』の初演です。


この編成のために新しく書かれた作品は、アンサンブルにとって特別な意味を持ちます。楽器の特性を最初から考えて作られているため、音の受け渡しや響きの重なりが自然に設計されます。編曲では避けられない制約から離れ、5人の関係そのものを音楽に反映できるのです。


彼の作品が初めて演奏されたことは、単なる新曲披露ではありません。アンサンブルカロスが、自分たちのための音楽を持ち始めた瞬間でもあります。


オリジナル作品には、メンバーの音色や個性が反映されやすくなります。誰の音がどの場面で生きるのか。どの楽器同士を重ねると新しい響きが生まれるのか。作曲者が演奏者を知っている場合、その関係は作品に深く影響します。


約束を果たした共演と、新しい作品の誕生。このふたつが重なったことで、アンサンブルカロスの歩みにははっきりした方向が生まれました。過去のつながりを大切にしながら、これからのレパートリーを自分たちで(というか興津諒が)広げていく方向です。





世代を超えた音はこれからも育っていく


アンサンブルカロスの魅力は、珍しい編成だけにあるわけではありません。5人の世代、経験、音楽観が違うからこそ、ひとつの曲の中に複数の時間が流れます。


ふたりが約束を果たして共演したこと。二度の異なる会場でのコンサートでそれぞれの響きを経験したこと。限られたレパートリーに向き合い、編曲に挑み、興津のオリジナル作品を初演したこと。


それらはすべて、アンサンブルの音に積み重なっています。


クラシック音楽の楽しさは、作品そのものだけでなく、誰が、どのような関係で、どの場で演奏するかによっても変わります。アンサンブルカロスは、そのことを静かに、けれど確かに教えてくれる存在です。



これから我々がどんな作品を選び、どんな編曲に挑み、どんな新作を生み出していくのか。5人が互いの違いを持ち寄るかぎり、その響きはまだまだ変化していくはずです。約束から始まった共演は、次の音楽へ向かう出発点になっています。


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